かつて花街だった荒木町。町内の杉大門通り、車力門通りなどには小さな飲み屋がぎっしりと並んでいて、再開発の手もさほど伸びていない。庶民的な部分はあるけど軽薄さはない、酒の分かるオトナの街というイメージです。
小さな地域なのに土地の高低差は激しく、えぐれたような谷底にかつて景勝地だった策の池が今も残り、それを取り巻くように細い路地や階段が迷路のように張り巡らされる。飲み屋街から外れて坂を下っていくと少しずつ店の灯りは少なくなるけれど、完全に住宅地になるわけでもない。町内を貫く外苑東通り沿いには焼肉屋やラーメン屋の名店も立ち並んでいるし、全貌がつかみづらい街。飲むより前に、散歩して楽しい街であることはまちがいない。
街外れの、靖国通りに近い坂の下の裏通りには入口のタイル張りが非常に美しい第二歯朶ビルという建物があり(ビルの名前もいい)、その奥にあるバル「オフビート」は、その本気度からしてほぼ「本格カレー屋」です。絶品インドカレーと、なぜか取りそろえのいい日本酒の組み合わせは意外とイケます。
ゆるゆると坂をのぼって街の真ん中に戻り、すっかり街に定着した「坊主バー」に行ってみます。現役のお坊さんがマスターを務めるここは開店16年。すっかり定着したけど、店内に仏壇を完備し、法話が聞けるイロモン的な(失礼)部分はバリバリ現役。一番人気のカクテル「極楽浄土」のヘブンな色を楽しんでいたら、かき混ぜないとお酒が下に溜まりますよと優しく説かれました。
ラストは「ロック伝道所」こと「dagaya」。ビンテージギターが照らされた地下で重めの音でロックを聴き、名古屋出身のマスターならぬ「リーダー」のお茶目なノリに触れる。自作曲をお願いしたら、照れながらもしっかり聴かせてくれるリーダー。荒木町は、そっけないオトナのような顔をして、誰でも受け入れてくれる街だな。